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「英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて」と題された 「アクションプラン」について

大津由紀雄
慶應義塾大学名誉教授・関西大学客員教授

2022年8月8日、文部科学省は「英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて」と題された「アクションプラン」(以下、単に「アクションプラン」)を公表しました。
https://bit.ly/3duTr87

 
まず、その概要を示します。つぎに、わたくしの考えを述べます。最後に、「付録」として、なぜ「アクションプラン」が2022年8月8日のタイミングで公表されたのかについてのわたくしが推測したところ(と言っても、ある程度の裏はとってありますが)を書いておきます。

アクションプランの概要

上記サイトに飛んでいただけると、12枚のスライドが現れます。驚いたことに、これだけなのです。後述する(「付録」)ように、「今年5月、末松文科相の下に省内のタスクフォースを設置し、取り組むべき事項を検討した」(「英語教育アクションプラン 個別入試に予算措置、地域差解消も」ネット版「教育新聞」8月8日付)結果であるらしいのですが、報告書の類は公にされておらず、いわばその要点だけを記したスライド集だけが公表されているだけです。その理由については「付録」で触れることにします。

まずは、この「アクションプラン」の全体像をつかんでおくことが重要ですので、以下、その骨格を見ておきたいと思います。

[A-1] 課題

冒頭に「グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、自国や他国の言語や文化を理解し、日本人としての美徳やよさを生かしグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められている」(強調、下線は原文のママ。以下、引用部分については同じ)という、2016(平成28)年12月21日中央教育審議会答申の文言が引用されています。これが設定された「課題」の役割を果たすことになります。
【節に付した「A-x」などは「アクションプラン」の構造を分かりやすくするために筆者が付したものです。】

[A-2] 現状分析

この「課題」に照らしての現状分析が続きます。「しかし、様々のデータから、英語力や対外発信に関する課題が示されている」として、3つの「関係データ」が示されています。

関係データ①:中学生・高校生の英語力は年々着実に向上するも第3期教育振興基本計画(~R4年度)の目標値は未達。地域差も顕著。

関係データ②:各国における受験者数や受検者層は異なるため、スコア差が各国の英語力差をそのまま表しているわけではないことに留意が必要ではあるが、各種の英語資格・検定試験において、我が国の平均スコアは諸外国の中で最下位クラス

関係データ③:大学が把握している日本人学生の留学生数はコロナ禍において著しく減少。新入社員の「内向き志向」を示すデータもある。

[A-3] 既存の英語教育の改善に関する方針と今後の課題

その冒頭に掲げられているのが「大学入試のあり方に関する検討会議 提言」(2021(令和3)年7月8日)です。つぎのような提言が特記されています。

高等学校:コミュニケーション重視の授業に向かっての「取組状況の地域差や学校差」が大きいので、「ICTの活用を含む効果的な指導方法の普及、ALT・英語の堪能な外部人材の登用の一層の促進、パフォーマンステストの実施回数・質のばらつきの解消、教科外における英語での発信・交流機会の拡充等」が求められる。

大学入試:「大学入試が「読むこと」や文法等の知識を問うことが多いため、入試が近づくほどに、こうした分野に学習が偏るとの指摘があ」り、「「話すこと」「書くこと」を含む総合的な英語力は、各大学の実情やアドミッション・ポリシーを踏まえ、実現可能な方法で適切に評価されることが望ましい」ので、「資格・検定試験の活用総合的な英語力試験の実施状況の実態調査・可視化、入試における優れた取組へのインセンティブ付与」することなどが求められる。

大学入学後:「初等中等教育を通じて培い、受験準備でも伸長を求めた英語力が、大学入学後の教育で必ずしも十分に伸ばせていない可能性」があり、「英語力について、三つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)への位置付けが不十分な実態」があるので、「社会が必要とする英語力の水準の可視化」等が求められる。

なぜこのタイミングで「アクションプラン」を立てるのかについては、「次期教育振興基本計画の議論がスタート」する、「このタイミングで、ポストコロナを見据え、改めて、我が国の未来を担う若者の英語力や対外発信力の改善について考えていく必要」があるからとしています。

[B-1] 基本的な認識

▶ 英語は世界で最も話者が多く、インターネット上でも最も使用される言語。グローバル化に対応する中で、外国語、中でも国際共通語としての英語によるコミュニケーション能力はこれまで以上に必要となっており、「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」のバランスのとれた育成が重要。
▶ また、初等中等教育段階の全体を通して、我が国の魅力や立場を効果的に対外発信できる人材を意識的に増やしていくことが不可欠。その際、全体レベルの向上と併せ、特にグローバルに活躍することを目指す層を効果的に育成していく視点も必要。
▶ こうした取組を進める上では、従来、文部科学省の施策の中心であった授業の改善のみならず、これまでは強く意識されてこなかった、教育課程外・学校外の活動の充実も必要。とりわけ、若者が海外に飛び出して文化や価値観の多様性に触れ、世界中の多様な人々と協働する力や広い視野で課題に挑戦する力を身に付けることが重要。

[B-2] タスクフォース

上記の「基本的な認識」にもとづき、

大臣の下にタスクフォースを設置し、英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて取り組むべき事項を「アクションプラン」として整理。
▶ アクションプランの中で速やかに対応すべき事項については、概算要求への反映を含めて直ちに作業更に検討を要する事項については、必要に応じて関係の審議会等で議論を行いながら、引き続きタスクフォースにおいて検討

[C-1] 学校英語教育の底上げ

① 英語教育改善に向けた取組状況の一層の可視化・好事例の横展開
② デジタル教科書・教材等による学びのDX
③ 英語4技能の総合的な育成に向けたパフォーマンステストの実施促進
④ 学校外における自主的・自発的な学習意欲の向上
⑤ 中高生の英語力に関する新たな目標値の設定

[C-2] 教員採用・研修の改善

① 教員採用段階の取組差の可視化
② 「英語で授業」のレベルアップ
③ 特別免許状等を活用した英語教師登用の拡充

[C-3] 大学入試・社会との接続

① 4技能の総合的な英語力評価も含めた入試の好事例の公表
② 私学助成・国立大学法人運営費交付金によるインセンティブの付与
③ 4技能別出題状況・英語資格試験導入状況の実態調査・可視化
④ アドミッション・ポリシー見直し促進のための教学マネジメントのあり方の検討
⑤ 大学教育における英語教育の充実
⑥ 大学生に期待する英語力等に関する積極的な情報発信の要請

[C-4] 国際交流体験活動・文化発信の推進

① 留学生との国際交流キャンプの実施
② 国立青少年施設における国際交流事業の実施

[C-5] 海外留学の促進

① 海外留学の拡大と段階に応じた留学支援の強化
② 「トビタテ!留学JAPAN」の発展的推進

「アクションプラン」についてのわたくしの考え(その1)

この「アクションプラン」を見て、目につく、気になったキーワードを3つ挙げるとしたら、「グローバル」(「グローバル化」、「グローバルな視野」、「グローバルに活躍する」、「グローバル人材」など)、「対外発信力」、それに「可視化」になるでしょう。

「グローバル」と「対外発信力」というキーワードから、この「アクションプラン」が学校英語教育の目的を「英語が使える日本人」を育成し、国家戦略に資するためと捉えていることがわかります。その意味で、「アクションプラン」は「「英語が使える日本人」を育成するための戦略構想」(2002年)とそれに基づく「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」(2003年)以来の露骨な国家戦略的・技能主義的英語教育観(英語は使えるようになって初めて意味を持ち、同時に国益に沿ったものとなる)に立つものであることが確認できます。

ただ、その露骨さの度合いがかなり増してきています。それを象徴するのがもう一つのキーワード「可視化」です。そこで、その使用例をいくつか挙げておきましょう。


▶ 毎年実施している「英語教育実施状況調査」では、取組の分析都道府県・政令市単位であり、課題の可視化が必ずしも十分でない。(6枚目のスライド、以下、「6枚目」などと略表記。太字は原文のまま)

次回調査(本年冬予定)以降、有識者の協力も得て、分析単位・調査項目を改善し、成果に繋がる取組や課題を徹底的に可視化。(6枚目)

▶ 英語力に関する新たな目標を設定するとともに、自治体の取組状況を一層可視化し、改善を加速させる。(6枚目)

▶ 4技能別出題状況・英語資格試験導入状況の実態調査・可視化(9枚目)

資格・検定試験の活用総合的な英語力試験の実施状況の実態調査・可視化、入試における優れた取組へのインセンティブ付与(4枚目)

英語を担当する教師の採用に当たり、各地域における英語力を確認する取組等に関する状況を可視化し、地域差の解消や全体的な取組の推進を図ることが必要。(8枚目)

これらの例を一瞥すると、さまざまな「努力」や成果を「可視化」することが求められていることがわかります。小中高大のすべての校種において、各学校ではもちろんのこと、各都道府県・政令市のレベルでも「可視化」が求められ、定められた目標に向かっての競い合いが期待されています。

では、「可視化」するというのは具体的にどういうことを意味するのでしょうか。この「アクションプラン」では明言されていませんが、1枚目から3枚目のスライドから判断するに、「数値化」とほぼ同義と受け取って差し支えないと考えられます。「ほぼ」としたのは数値そのものではなく、数値が示すところに根差した考察なども含むからです。

蛇足だと思いますが、念のために付け加えておけば、目標の達成に向かって互いに切磋琢磨することはすばらしいことですが、その目標がほぼ数値のみで示され、その数値に近づくこと自体が目的化されると、目標の数値に近づくために手段を択ばずという展開になる危険性が高まります。

その「可視化」を支えるのが「(実態)調査」です。しかも、それを全国規模で行おうとする意図も鮮明です。競争による選別です。

さらに、「可視化」された成果により「インセンティブ」を付与するなどというきわめてあけっぴろげな表現さえ顔を出している部分さえあります。たとえば、上に挙げた例の一つである、「資格・検定試験の活用総合的な英語力試験の実施状況の実態調査・可視化、入試における優れた取組へのインセンティブ付与」について言えば、《大学入試において資格・検定試験がどの程度活用されているのか、総合的な英語力試験の実施状況はどうなっているのか、実態調査を行い、その結果を数値で示しますよ。そして、優れた取り組みにはご褒美を差し上げます。明言はしませんが、数値からあまり努力の跡が認められないのであれば、どんなことが待ち受けているかおわかりですよね》(飴と鞭)ということになります。

こうした「アクションプラン(行動計画)」が実行された場合、どんなことが起きるかは想像に難くありません。いま以上に上意下達の徹底が図られ、結局、そのしわ寄せは教室で子どもたちと向き合う先生たちに行きつくことになります。

「アクションプラン」についてのわたくしの考え(その2)

「アクションプラン」は上に指摘したこと以外にも英語教育政策の「本音」がそこかしこに発見でき、その意味できわめて重要な文書です。

① 4技能・英語民間試験・「英語の授業は英語で」など
「アクションプラン」は国家戦略的・技能主義的英語教育観(英語は使えるようになって初めて意味を持つ)によって濃厚に色づけされていることを述べましたが、ここ数年、注目を集めている4技能、ことに、4技能別の入試出題がここでも強く打ち出されています。


入試の英語科目における4技能別の出題状況及び英語資格・検定試験の活用状況にいて、令和2年度入試に続き令和4年度入試に対しても選抜区分ごとの実態調査を行い、全体としての傾向を把握し、今後の政策立案に活用する。(9枚目)

「4技能」と聞くと、大学共通テストへの民間英語試験の導入を思い起こされるかたも多いと思います。あの案件自体は中止となりましたが、英語民間試験への後押しが終わったということではありません。


入試における総合的な英語力評価や英語資格・検定試験を導入している大学については、英語力を高めたいと努力している受験生への情報提供の充実を図るため、大学名等を公表し、各大学の取組の見える化を進める。(9枚目)

私立大学等改革総合支援事業(私立大学等経常費補助金)における調査項目を見直し、4技能の総合的な英語力を評価した入試を行っている大学に対し加点する。(9枚目)

ちなみに、現在、反対運動が根強く続けられている、東京都の英語スピーキングテスト(ESAT-J)もこの流れの中に位置づけないとその意味を正確に理解することができません。正しく理解した時に、この問題は単に東京都の問題に留まるわけではないのだということも明らかになります。

さらには、「英語の授業は英語で」という方針も学習指導要領を錦の御旗にふたたび強調されています。


中学校・高等学校の英語の授業について、授業は英語で行うことを基本とすることが学習指導要領に規定される中、指導力向上のための取組が必要。(8枚目)

誤解を生まないように念のために書き添えておけば、英語の運用能力を育成するために、できるだけ母語を使わず、英語だけで授業をする部分があることにまで反対しているのではありません。問題は、母語を活用するほうが望ましいと考えられる場合も含めて、授業をすべて英語で展開することを強要されることなのです。「授業は英語で行うことを基本とする」(傍点大津)ときちんと書いてあり、英語以外の言語を使ってはいけないというわけではないのだという説明がなされることもあるようですが、先生たちの声を聞くと、必ずしもそのようにことが運んでいるわけではないようです。

② 複言語主義
現行の学習指導要領には、外国語科においては母語(日本語など)との関連づけ、国語科においては外国語(英語など)との関連づけの重要性が多くの箇所で指摘されています。これは複言語主義の考えに基づく、現行の指導要領が誇るべき特徴です。

ところが、「アクションプラン」には「母語」、「日本語」、「国語」などへの言及は見られません。冒頭で触れた、「「英語が使える日本人」を育成するための戦略構想」(2002年)とそれに基づく「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」(2003年)でさえ、「日本人に対する英語教育を抜本的に改善する目的で、具体的なアクションプランとして「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」を作成することとした。あわせて、国語力の涵養も図ることとした」などと、いささかとってつけた感はぬぐい切れないものの、英語教育と母語力育成の関連についての明確な言及がありました。

上で述べたように、複言語主義の考えの反映は現行の指導要領が誇るべき特徴です。この新たな芽を大事に育て、次期学習指導要領にもその考えが明確に反映されるよう、見守っていかなくてはなりません。

③ 学校教育内での「エリート」育成
「アクションプラン」のなかで、わたくしにとってもっとも気になった点と言ってもよいのがこの点です。「基本的認識」の第2点目としてつぎのように書かれています。


[前略] 初等中等教育段階の全体を通して、我が国の魅力や立場を効果的に対外発信できる人材を意識的に増やしていくことが不可欠。その際、全体レベルの向上と併せ、特にグローバルに活躍することを目指す層を効果的に育成してい視点も必要(5枚目、波線大津)

議論のために仮に国家戦略的・技能主義的英語教育観に立つとしても、「「英語が使える日本人」を育成するための戦略構想」、「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」、そして、この「アクションプラン」のやり方では「英語が使える日本人」が育たない理由は明白です。英語の基礎力の育成をないがしろにしているからです。小学校英語然り。きちんとした体制作りもないままに小学校から英語を教えても英語嫌いが増えるだけです。中学校英語然り。現行の学習指導要領のもとで編まれた教科書を前に多くの先生たちが悲鳴を上げています。

もはや学校英語教育の枠内で英語の力を育成することはきわめて困難な状況に陥ってしまっています。そうなると、学校外の塾や英語教室などに通わせることができる経済力を持った家庭の子どもたちだけが学校英語教育では育成しきれなかった基礎力を補い、英語の力を伸ばしていける可能性を手に入れることができるということになります。

ここでも、念のために書き添えておきますが、わたくしは「特にグローバルに活躍することを目指す層を効果的に育成していく」ということ自体を否定しているのではありません。わたくしの考えは学校(英語)教育はそのための基盤を育成するためのものであり、その基盤育成の機会はすべての子どもたちに平等に与えられなくてはならないということです。

④ ALT経験者、民間英会話教室経験者などの登用促進
「教員採用・研修の改善」の取り組みの1つとして「特別免許状等を活用した英語教師登用の拡充」が挙げられています。その項の内容は以下のとおりです。


ALT経験者、民間英会話教室経験者などの登用促進(特別非常勤講師として登用し、その経験を加味して特別免許状で採用することも含む)。
▶ 特別免許状の授与基準の策定・公表の有無、手続の内容(申請受付時期等)、学校種別・教科別の授与件数を自治体別に分かりやすく公表(再掲)。
▶ 中期的には、上記の国で開発する学習プログラムを修了した者を登録するデータベース(人材バンク)を構築し、当該者に対する教育委員会による特別免許状の授与審査や採用試験の簡略化を促進。(8枚目)                  

「ALT経験者、民間英会話教室経験者などの登用促進」自体は悪いことではありませんが、学校教育の一端を担ってもらうためには、ALTとしての経験や民間英会話教室での教授経験だけで十分というわけではありません。実際、こうした人たちを登用したがうまく機能しなかったという趣旨のメールも数多く届いています。もちろん、立派にその役割を果たし、周りからも感謝されている人たちもたくさんいることは間違いないのですが、大切なことは登用にあたっての資格審査をきちんと行うことです。

英語教育指導者の資格認定を行うNPO法人もありますが、そうした組織に丸投げするのではなく、広く学校教育に関わる人たちによる議論を出発点に、資格認定の基準を明確にすべきです。上記にある「特別免許状の授与基準の策定」がそれにあたると思われますが、開かれた委員会での、きちんとした議論を経た上での策定が必要です。ことの推移を注意深く見守る必要があります。

すでに述べたように、「アクションプラン」のやり方では「英語が使える日本人」は育ちません。英語の基礎力の育成をないがしろにしているからです。以前から小学校段階での英語嫌いが生まれることを懸念していましたが、残念ながら、それが現実になりつつあります。基礎力育成の中核を担うべき中学校でも大きな混乱が生まれています。小学校で習ったとされる、その実、まだ定着していない語彙に加え、増加した新語彙と文法事項で、とくに、中学1年生の英語を担当する先生たちの悲鳴が聞こえます。

「付録」で少し詳しく述べますが、この「アクションプラン」は末松信介前文部科学大臣のいわば「サヨナラ企画」として編まれたものですので、今後、それ自体が重要視されることはないと思います。ただ、慎重に練られたものではないからこそ、これまで見てきたように、文部科学省の英語教育政策の本音がそこかしこに顔を出しており、その意味で貴重な文献として注目に値すると思います。

もうそろそろ、「「英語が使える日本人」を育成するための戦略構想」、「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」の呪縛から解放されるべきです。そうでないと、英語教育だけでなく、学校教育全体が崩壊してしまいます。

いまこそ、冷静に英語教育のあり方について議論すべき時であるとの思いを強くします。

付録:なぜ「アクションプラン」が2022年8月8日のタイミングで公表されたのか

「アクションプラン」が公表されたことはネット版「教育新聞」の8月8日付の記事「英語教育アクションプラン 個別入試に予算措置、地域差解消も」という記事で知ったのですが、そのときの最初の反応は「えっ、なんでこんなタイミングで!?」というものでした。

さっそく、その「アクションプラン」そのものを読もうと思ったのですが、なんとそこにあったのは12枚のスライドだけで、きちんと文章化された報告書の類は見当たりません。

上記の「教育新聞」の記事によると、「今年5月、末松文科相の下に省内のタスクフォースを設置し、取り組むべき事項を検討した」結果があの「アクションプラン」だそうで、それにしてはあまりにもお粗末としかいいようがありません。

しかし、「アクションプラン」公表の前後の政治状況を考えれば、ことの次第を推察するのはさほど困難なことではありません。8月10日、岸田文雄内閣総理大臣は臨時閣議で(当時の)閣僚の辞表をとりまとめ、内閣改造を行いました。結果、末松信介前文部科学大臣は再任されることなく、永岡桂子氏にその座を明け渡すことになりました。実際、旧統一教会関連の問題もあり、末松前大臣の交代はさほど意外なことではありませんでした。

となると、末松前大臣が在任中にその業績の一つとして「アクションプラン」を公表しておきたいと考えたとしても不思議はありません。だから、駆け込み8月8日というタイミングになったのだと考えるのが自然です。

それにしても、気の毒なのは官僚たちです。8月13日付の「カナロコ」(ネット版神奈川新聞)に「突然の内閣改造で4連休吹き飛び、官僚は首相に恨み節「家族で焼き肉食べるはずが…」」と題された記事が掲載されています。
https://bit.ly/3zYcmjn

この記事は内閣改造によってその後の官僚たちの生活が搔き乱されてしまう様子を取り上げたものですが、文科官僚たちは近鉄大和西大寺駅前での事件から改造に至るまでの日々も想像を絶するような生活を強いられたのではないでしょうか。それでも、正式な報告書は間に合わせることができず、12枚のスライドを以て、末松前大臣の最後の業績として公表することになったのでしょう。

この「付録」に書いたことはわたくしの推測ですが、ある程度のウラはとってあります。もしこの推測が事実とはかけ離れたものだということであれば、ぜひご一報ください。

【注】「付録」は一般社団法人ことばの教育のウェブサイト上にある「大津研ブログ」に「英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて」(アクションプラン)について(その1)」として掲載した文章に若干の修正を加えたものです。 

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